水夏を第三章まで終わらせた現時点で感想を書いておこうと思う。最後までやった段階でどうなっているかはわからないが、少なくとも現時点での印象は初めての経験である。これに関しては書き留めておきたいと思うし、最後まで終わった時点でどう心境が変化しているかを自分としても見てみたい。ただし、これは純粋に感想です。本当に、ただただ感情をぶちまけているだけなので、そこら辺はご承知の上お読み下さい。また、水夏第三章までの致命的なネタバレが多数存在します。水夏第三章まで終わらせてからお読み下さい。
今までいろいろなゲームをやってきて、くだらない内容に対する失望、つまらないシナリオに対する脱力などはあっても、ある作品を「嫌いになる」ということはほとんど無かった気がする。単純につまらなければ無関心になるだけだったし、そうでなければ何らかの形で作品に対して納得出来た。しかし今回は違う。決してこの作品がつまらないわけではない。この作品に求心力が無いとも言わない。無関心でいられる作品ではないが、しかし私は、この作品が嫌いである。
使い古された言葉だろうが、「嫌い」という感情は「好き」という感情と同じぐらい相手に対してエネルギーが向けられている、と言う。私にとってこの水夏と言う作品は、まさにそういう対象なのだと思う。あらかじめ断っておくと、私はこの作品をやったことを全く後悔はしていないし、少なくとも現段階ではむしろ出会えてよかったと思っている。最後まで終わったとき、果たして何を思うのか…。
オープニングから冒頭部分、なんとなくAir臭い作品だな、と言う印象。まあ、千夏なんてキャラが出てくるあたり、ある程度意識してはいるんだろう。正直、あの手の作品はもういいな、などと思っていた。
この時点でもう完全に小夜は眼中に無し。伊月一本やり。回想を織り交ぜるやり方はうまく機能していたと思う。「先が気になるように仕向ける」というのは、この作品を通して強調して使われている手法だったが、どちらか片方を流し続けていたらどちらも冗長になりがちなので、上手い具合にシナリオに起伏がついていたのではないだろうか。
突き付けられた現実はあまりに辛かった、痛かった。何よりも苦しいのは、この悲しみを受け入れなければならない、受け入れざる得ないということだ。突き出された腕は、例えば足を滑らせた小夜を救うものではなった。そうであって欲しいと願った。しかし彼女ははっきりと言ったのだ。小夜を殺したのは自分である、と。あの腕は本当に小夜を奈落の底に突き落とすものだった。願いは、通じなかった。
自分はプレイヤーとして願った。でも、伊月の死は認めなければならない。仮に引き止めることが出来たとしても、それはは許されないことだ。伊月を見送ってやらなければならない。そして、小夜の復活を祝福してやらなければならない。
全ては願いと反対でも、それを認めなければならない、認めざるを得ない。千夏が何をやったのか、現段階ではっきりしたことは何もわからない。しかし大体の予測はつく。結末が予想できなかったというのか。予想以上に彰を苦しめたことを後悔しているというのか。…自分の行いがどのような影響を持つのか、この程度の結末も予想出来ないような愚か者に、人の運命をどうこうするような資格はない。あってはならない。
全ては予測された結末だったとしても、謝罪なんていらない。後から謝るようなそんな問題ではないはずだ。どちらにしろ、自分にはこの千夏の発言は許しがたいものだった。
でも。この作品は選択により展開が変化するみたいだが、自分の見ていない展開ではまったく違うシナリオが繰り広げられているのだろうか?願わくば、安易な救いがないことを祈りたい。この悲しみは、救われてはいけない悲しみなのだから。
はっきり言ってまだ第一章を引きずっていた。この先にまた不幸が待ち構えているかもしれない、ハッピーエンドでは済まされないかもしれない。そう思い、つい身構えてしまう。事前にこじまにさんから「さやか先輩はお勧めですよ〜」と言われていたので、せめてキャラクターに没頭しよう、と思ったのだが…。
確かに良いキャラクターだと思う。それは確かだけど、どうも、いまいちしっくりこない。自分の好きなキャラクター像とは、どこか隔たりがある。
正直言って、これに関してはうまく説明することが出来ない。ただあえて書くならば、さやか先輩には隙がない。心が無防備になる瞬間が感じられない。どこか、仮面があるように感じてしまうのだ。だから、自分も最後の一歩が踏み込めない。仮面を被っていないと、接することが出来ないのだ。最後までやることでこの距離感はだいぶ解消されたのだが、それでも完全に、とは言えなかった。ただ、この説明が正しいのか自分でも良くわからない。自分の感情でも、それでも全く的外れなことを言ってるかもしれない。
始めに書いたように、この章はどうしても第一章を引きずってしまう。そしてシナリオライターは、プレイヤーがそういう心理状況に陥っていることを利用して物語を構成しているように感じる。このシナリオでは終盤、ことあるごとに蒼司の死を予感させる記述が出てくる。確かにそれは、シナリオに緊張感を持たせるという点では役に立っていたと思う。しかし…
しかし、蒼司の死を予感させることに、一体どれほど意味があったのか?律とさやかの物語は、それは美しいものだった。それは素直に受け入れたい。しかしそれを語る上で、プレイヤーに蒼司の死を植えつける必要はほとんどない。むしろ蒼司の生死の方が気になってしまって、もう一つの物語の方が唐突な感じがしてしまい素直に受け入れることが出来なかった。邪魔をされたのだ。
そして…蒼司は生きていた。それを知った瞬間脱力してしまった。あれだけ煽っておいて、このとってつけたような結末は一体なんだ?そして、自分にとって致命的ともいえるあの台詞が飛び出す。
「…これじゃまるで僕が死んだみたいじゃないですか」意味なんて無かった。単に場を盛り上げるための道具として用いられていただけだった。散々煽って、肝心の部分さえ霞むほど煽って、最後の最後まで引っ張って、結局本当にただの煽りでしかなかったと。そして何よりも、それをシナリオライター自身が上のような言葉で書いているということ。
何か、馬鹿にされているような気がした。いたずらにはまった自分を、仕掛けた張本人がそれを見て笑っているようなそんな感覚が。この時点で全ての感情は怒りに変わっていた、と思う。
シナリオが気に入らない。第二章でこのゲームが一気に嫌いになってしまったが、それでも先を見たいという気持ちがそがれたわけではなかった。このゲームの全てが悪いわけではない。良い点もたくさんある。それらを見ないのは、やはり惜しい。
悪く言えば、相変わらずの展開。謎めいた展開でプレイヤーを引きつけようとするその手法は今までとなんら変わりがない。むしろ、それがさらに強調されている感がある。日常描写も特に大きな変化はなし。日常描写については今まで特に触れなかったが、雰囲気は良く出てるしテンポも悪くなく、読んでていて楽しい。良く出来ている方だろう。とはいえ、特別記憶に残るほど優れている、と言う程でもないので、まあ、良作の部類だろう。
なぜこのゲームはこうもプレイヤーを突き放すのか。それはまるで、綺麗に描き上げた絵画に自ら泥を塗る行為にも見える。そしてその絵画が他人に見られることを目的として描かれているならば、それは見る人間にも泥を塗る行為だといえる。それを見た人間が困惑する様を楽しんでいるかのような、そんな印象すら感じさせてしまう。
シナリオ構成は確かに良く出来ていた。後から考えてみれば細かい部分にもしっかり伏線が張られていたし、トリックもこの世界観の中なら十分納得できるものだった。なのになぜ、わざわざここまで作りこんでおいて、プレイヤーを十分唸らせた上で、好印象を与えた上で、最後の最後で突き放すのか。これでは、透子派も茜派もただでは済まないではないか。
納得は出来たが、でも第一章でもそうだった。伊月は小夜を突き落とした。第二章でもそうだ。これに関しては散々第二章のところで書いてきた通りだ。なぜこのシナリオライターは、自分で築いたものをわざわざ崩そうとするのか。個々の章でのトリックと、それにまつわる伏線は良く出来ていたと思う。加えて章ごとにも繋がりがある。一歩間違えれば数々の矛盾を生みかねないシナリオを、うまく詰めていたと思う。これだけの事が出来るのだから、このライターが馬鹿なわけがない。
ならばなぜか?第二章で感じたように、本当にただあざ笑うためだけだったのか。それとも…そうしなければいけない、何か重要な理由があったのか?プレイヤーを突き放すことも、作品全体で見たときの、何か大きなトリックのための伏線なのか?
嫌いという感情をダイナミックに変化させる程のものを最後に見せてくれるのか、それともそのまま嫌いのまま終わってしまうのか。全ては、第四章で…
総合感想に続く…?